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ペデストリアンデッキの階段を降りきったところで、征也は足を止めた。ペデストリアンデッキを覆っている屋根はそこまでで、優香のいるであろうインフォメーションセンターまでは、雨の中を歩いていかなければならない。
征也が立ち止まったのは、雨に濡れたくないからではないことは、康介とまゆみもすぐに理解できた。
駅前からペデストリアンデッキを歩いている間に、康介とまゆみは、ざっくりといままでのいきさつを聞いていた。
征也と優香は、お付き合いをしていたこと。
ささいなケンカをしたこと。
それ以来、メッセージを既読スルーされていること。
「ぬーたん」は、優香の推しキャラであること。
たーぬんグッズをコレクションしていること。
二年前に発売された十周年記念バージョンは、入手できなかったこと。
仲直りをしようと思って、オークションで入手したこと。
今日、優香が出勤だということを知って、直接渡しにいこうと思いついたこと。
でも、直前で怖くなって、ゲートにくくりつけたこと――。
「いってらっしゃい」
そう言って、康介は征也の背中を叩いた。すると、小さく頷いた征也は、ふたりの方を向いて軽く頭を下げたあと、インフォメーションセンターへ向かって、走っていった。
「大丈夫かなぁ……」
まゆみが小さい声で言うと、
「さぁ?」
康介がそっけなく答えた。「どうなるかはわからないけど、少なくともなにもしないより、いい結果になるのは間違いないんじゃない?」
征也がインフォメーションセンターに入っていったのを確認すると、康介は回れ右をして、階段を登りはじめた。
「ところでさぁ」
康介に続いて、階段を上がりながら、まゆみが聞いた。「彼に、どんなメッセージ送ったの?」
まゆみは、征也が現れるかどうか半信半疑だったので、なんで康介は「たぶん来る」と自信を持っていたのか、不思議だったのである。
「――これ」
康介は、スマホで征也に送ったメッセージを表示させて、まゆみに見せた。
突然のメッセージ失礼します。
あなたが置いてったぬいぐるみを預かっています。
取りに来なかったら、もらっちゃいいますけどいいですか?
そうすると、中に入っていた手紙も私のものってことになりますね。
私のものだから、ネットにさらしても問題ないですよね?
「……サイテー」
低い声で、まゆみが言った。
「それくらい書かないと、取りに来ないでしょ」
そう答えて、康介はスマホを取り返そうとした――が、まゆみがスマホを放さない。「どうかした?」
「あれ見て!」
まゆみは、康介とはまったく別の方向を見ていた。康介が、その先に視線を向けると、そこには……ブーツが一足、あった。
階段の最上段に、きちんと揃えて、ブーツが置いてある。見た限りでは、雨に濡れてはいなさそうだ。
「なんでこんなところに……ちょっと!」
なにか言いたそうなまゆみの手首をつかんで、康介は駅へ向かって走り出した。
Fin.