
7
最後の曲が終わると、
「ありがとうございました」
そう言って、硝は深くおじぎをした。――1秒、2秒、3秒。
いままでの感謝の気持ちを込めて、いつもより長く。
すると、いままで我慢していた涙が、ステージに落ちた。泣くのが悪いとは思わないけど……それを見られるのが恥ずかしくて、硝は小走りでステージからはけた。
「お疲れさま!」
戻ってきた二人と一匹――じゃなくて、三人に茶月が声をかけた。が、硝は杏菜の胸に飛び込んだ。
様子を察した杏菜は、
「あと一曲残ってるんだから、泣くのはそれまで我慢しなさい」
と言ったが、それが硝には、「あと一曲しかない」に聞こえて、余計に涙が止まらなくなってしまった。それを見たサキチが、ぽんぽんと白い手袋で、硝の頭をなでた。
「――どうですか?」
茶月は、横にいた理事長の吉田山に聞いた。が、大音量のアンコールにかきけされて、聞こえないようなので、茶月はもう一度、大きな声で言った。
「ど・う・で・す・かっ!!」
それでようやく聞き取れた吉田山は、大きくうなずいたあと、
「仕方ないですね」
とつぶやいた。それを聞いた茶月は、にやりと笑って、ポケットから封筒を取り出し、硝に渡した。
「これ、ステージに上がったら、アンコール曲がはじまる前に読んで」
と耳打ちすると、パンパンと、大きく手を叩いた。「さぁ、アンコールいきましょ!」
その声に促されるように、三人はステージへ小走りで向かった。
三人……というか、二人と一匹が登場すると、「うぉーっ!!」という地鳴りのような歓声が起こった。
「さっきこれを渡されて……」
そう言いながら、硝は手にした封筒をみんなに見せた。「いま読めと言われたので、読みます」
ガサゴソと紙を開く音が、マイクを通して、会場全体に響く。
「えっと……『ペッパー&ミントの活動を、四ヶ月延長します』」
まるで爆発音かのような歓声と、悲鳴に近いような三人の叫び声。そこにアンコール曲のイントロが重なって流れ始める。
が、硝はその場にしゃがみこんでしまい、杏菜とサキチ――の中の咲紀も、硝を取り囲み……イントロが終わっても、歌いはじめられそうな状況ではなかった。
その様子を見たファンが、ひとりまたひとりと、アンコール曲を歌いだし、いつしか大合唱となった。
この日のライブは、「アンコールで大合唱事件」として、ファンの間で語り継がれることとなる。
Fin.