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「出た!」
テストが終わるなり、ひとみの席にそらが駆け寄ってきた。「ホントに――」
ひとみはあわてて立ち上がり、そらの手を掴んで、教室の外に連れ出した。
「ちょっとなに!?」
そらが言うのも無視して、ひとみはずんずん歩いていき――廊下の突き当りまで連れてきたところで、ひとみはようやく、そらの手を離した。
「どうしたの?」
そらの言葉に、
「ヘンに誤解されて、悪い噂が広まっちゃったらどうするのよ」
小さな声で、ひとみは言った。
教室の中で、「ひとみが見たテストの問題が出た」なんて話をしたら、カンニングだの、問題を事前に盗み出しただのと思われてしまう。そんな悪いことをしたかのような噂が広まったら、たまったもんじゃない。
「だって!」
そらが言った。「ひとみが見た通りの問題が出たんだよ!?」
大正デモクラシーに、平塚らいてうに、与謝野晶子。
驚いたことに、ひとみが「見た」と説明した問題が、そのまま問題用紙にプリントされていたのである。そらのテンション上がるのも無理はない。
「そりゃまぁ、そうだけど……」
確かに、テストの問題を見たときは、ひとみも驚いた。自分が「見た」問題用紙が、そのまま目の前に出てきたのだから。けれども、驚きより「嘘つきにならなくてよかった」という安堵感の方が強かった。
「それよりさ」
そらは、ひとみに耳打ちした。「次の数I、どんな問題が出るの?」
「知らないってば」
ひとみは即レス。「さっきのやつしか見えてないもん」
「じゃあ見て」
そらは、ひとみの手を握って、ぶんぶん振った。「ほら、早く!」
「そんなこと言われても……」
さっき「なんでテストの問題が見えたのか」がさっぱりわかっていないのだから、それを再現できるわけなんてない。
<でも、今朝はなんであんなものが見えたんだろう?>
ひとみが今朝のことを思い出そうとしたとき、そらがひとみとは別の方を見た。それにつられて、ひとみが振り返ると――
「あ、近江じゃん」
自分に向かって歩いてくる男子生徒を見て、ひとみは言った。
「よお」
軽く手をあげながら、近江はひとみに声をかけた。「日曜のクラス会の話、聞いた?」
「昨日、LINEで回ってきた」
ひとみが答えた。
ひとみと近江は、同じ中学出身で、しかも同じクラスだった。実は、先月テーマパークでクラス会をしようと計画していたのだが、台風でテーマパークが休園になってしまい、クラス会も中止になっていたのだ。
「近江は出るの?」
ひとみが聞くと、
「もちろん」
と、近江は即答した。「中間テスト明けだし、バーッと騒ぎたいじゃん。大田は?」
ほんの一瞬だけ躊躇して、
「行くよー」
ひとみは答えた。
今朝、「どこか行きたいね」とそらと話していたことが、頭をよぎったのだ。――同じことを思ったのか、そらがひとみになにか言おうとしたころで、廊下の反対側から、教師が向かってくるのが見えた。
「じゃ、日曜な!」
そう言うと、近江は小走りで自分の教室に向かっていった。