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「では、これに記入していただけますか?」
お姉さんはそう言って、カウンターに一枚の紙を置くと、小走りに後ろの部屋に入っていった。
康介とまゆみの前に置かれたのは、「拾得物メモ」と書かれた紙だった。ということは、これに記入しろ、ということなのだろう。
それはいいとしても……。
ふたりは、顔を見合わせた。
事務手続きが必要なのはわかる。が、紙だけ渡して客(といっても、入園はしてないから、正確には客ではないけれども)を放置するのは――。
と思った次の瞬間、さっきのお姉さんが、バスタオルを抱えて、戻ってきた。
「これで、体を拭いてください」
そう言って、康介とまゆみにバスタオルを差し出した。
バスタオルを受け取りながら、またふたりは顔を見合わせた。
<さすが、おもてなしで有名なテーマパーク!>
感動のあまり、ふたりは顔を拭くのも、しばらく忘れていた。
入園ゲートで、あやしい袋に入ったぬいぐるみを見つけたふたりは、その場にぬいぐるみを放置――することも考えたのだが、それもちょっと気が引けるので「忘れ物として届けよう」ということになったのだ。
とはいっても、休園しているのでチケットを販売するブースにも係員はおらず……しょうがないので、ぬいぐるみの入った袋を抱えたまま、周囲を歩き回り、ぬいぐるみを見つけたのとは別のゲートの端にインフォメーションセンターをみつけたというわけである。
――戻ってきたお姉さんは、ぬいぐるみの入ってる袋をひと通り確認したあと、
「中身を確認したいのですけど……どうしましょう?」
と言って、袋の下の部分をふたりに見せた。――ビニール袋の口が、がっちりとテープで固定されている。
「開けちゃえば?」
あっさり言って、テープに手を伸ばしたまゆみに、
「そういうわけにもいかないだろ」
と言いながら、康介はまゆみを止めた。
テープでしっかり固定されているから、中身を確認するためには、袋をやぶかなきゃいけない。それはさすがにできないだろうと、康介は思ったのである。
かといって、「正体不明の物体」だけでは、持ち主を探すのもままならない。
――すると、お姉さんが袋の上から、感触を確かめると、
「これは、『きーたん』ですね」
「「えっ」」
康介とまゆみが、同時に声を上げた。
外から触っただけでわかるとは、ふたりとも思っていなかったんである。
二人の反応をどう解釈したのか、お姉さんはそのキャラクターの説明をはじめた。
「レイクサイドフォレストっていうエリアにいるキャラクターで、たぬきの三兄弟なんですよ。長男がたーたん、次男がぬーたん、三男がこのきーたんで、耳とかしっぽの形が違うんで、触ればわかるんですよ。――しかもこれ、二年前の十周年記念バージョンですね」
「「はぁ!?」」
また、康介とまゆみの声が揃った。
「外から触っただけで、よくわかりますね……」
まゆみが聞くと、
「このサイズは、特別なイベントにしか発売しないサイズですし、手裏剣持ってるので、二年前のやつだと」
――お姉さんによると、イベントごとにぬいぐるみのモチーフが変わり、二周年のイベント時にたぬきの三兄弟は、忍者がモチーフだったからわかった……ということらしい。
「さすがだねぇ……」
康介が感心するようにつぶやたとき、
「ところで」
お姉さんが言った。「このぬいぐるみ、どこで拾ったっておっしゃいましたっけ?」
「ゲートのところにくくりつけられてあって……」
康介が答えると、
「それだと園内ではないので、ここではお預かりできないですね」
お姉さんは、そう言った。
確かに、ゲートの内側ではないから、「園内」ではない。
「そういうルールになってますので……警察の方に届けていただけますか?」
笑顔を崩さず、お姉さんはそう言って、二人にぬいぐるみの入った袋を差し出した。