1
「マジか……」
康介がつぶやくと、
「失敗したね……」
隣のまゆみも、それを見て言った。二人の視線の先には、一枚の貼り紙があった。丁寧にポリ袋でくるまれたコピー用紙が、柵にくくりつけられている。で、そこには……
本日休園します
――と、書かれていた。
ここはとあるテーマパーク。康介とまゆみは、ようやく休みが重なったので、テーマパークへと遊びにきたのだが……。
呆然とする二人を、激しい雨と風が打ちつける。すでに靴どころかスボンもびしょびしょだ。
もちろん二人も、今日台風が首都圏を直撃することは知っていた。しかも、「九六〇ヘクトパスカルの大型台風」であることも。けれども、
「台風なら、空いててラッキー」
くらいにしか思っていなかった。いくつかアトラクションの休止はあったとしても、屋内のアトラクションも多いし、休演するハズがないと思い込んでいたのだ。言われてみれば、駅前も異常なくらい人影が少なかったのだけど、それを見ても、
「この様子なら、いつも以上に遊べる」
と話していたくらいだった。
テーマパークのホームページくらい、出かける前にチェックしてくればこんなことにはならなかったのに――と思っても、あとの祭り。あるのは「休園で入れない」という事実と、まるまる空いてしまった時間だけである。
「――どうする?」
康介は、まゆみに聞いた。
「どうするって言われても……」
まゆみは、視線を貼り紙から康介に向けようとして――なにかが目に入った。
そのテーマパークには、いくつかの入園ゲートが並んでいる。まゆみと康介がいるのは、駅から続くペデストリアンデッキに一番近いゲートだ。そこで二人は貼り紙を発見したのだが、いくつか離れたゲートのところに、なにかがある。
「康介、あそこになにかある」
「え?」
まゆみの指差した先には、白い袋のようになものがあった。が、二人の位置からはハッキリと見えないものの、そこにあるべきものではないことは理解できた。
「あれ、なんだろう?」
言うより早いか、まゆみは駆け出した。
「え、ちょっと!」
あわてて、傘を飛ばされないようにしながら、康介はまゆみのあとを追いかけた。
――さっきいたところから五つ離れた入園ゲートにあったのは、白い大きなビニール袋だった。両手で抱えないといけないくらいの大きさのビニール袋が、入園ゲートにくくりつけてある。何重にも袋を重ねてあって、中身はハッキリとは見えない。
「なにかしらね、これ」
そう言いながら、まゆみは袋に手を伸ばした。――数回ソレをつついたあと、まゆみは康介に顔を向けた。「ぬいぐるみが入ってる!」
「ぬいぐるみ!?」
そう言って康介も袋に手を伸ばしてみる。――確かに、ビニール袋の向こうに、ふわふわとしたぬいぐるみの感触がある。
テーマパークだから、ぬいぐるみがあるのはおかしくない。
にしても。
こんなところにビニール袋に入ったぬいぐるみを置くなんて演出は考えられない。今日は休園なのだから、「中で買ったものを落とした」って可能性もない。そもそも、何重にもビニール袋でくるんでいるっていうことは、明らかに台風の雨対策なんだろう。それはいいとしても、なんでぬいぐるみをゲートにくくりつける必要がある?
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりで――まゆみと康介は、顔を見合わせた。