5 凛・2004
聞いてみると、話は簡単だった。律子とノリちゃん――規夫が最初に付き合っていた。付き合っていたわけだから、二人で出かけることの方が多かったが、洋子も加えた三人で会うこともしばしばだったという。仲の良い姉妹ならば、それも納得できる話だ。ところが、しばらくすると、規夫は洋子に乗り換えてしまった。
律子と典夫が付き合っていたときも、三人で会うこともあったから、洋子はそれまでと同じように、律子を誘って三人で出かけようと誘うことがあったのだと言う。
洋子にとっては自然なことでも、律子にとってそれは耐え難いことだった。そんなこともあって、意識的に二人を避けていたのところに、ボクが現れた。洋子に心を奪われていたボクの様子を見て、洋子にボクをあてがえば、規夫も自分に戻ってくるかも……と律子は考えたらしい。
その企みが、悪あがきでしかないことは、律子もうすうす感づいていたようだったけど、それでもやらずにはおれなかったのが、女心なんだと思う。
それからしばらくして、なんとなく、ボクと律子は付き合うことになった。その後、結婚もして子供も生まれて、それなりに暮らしている。気がつけば、あれから十年以上経ってしまったことになる。洋子は、あれからいろんな男と波乱万丈な人生を送っているようで、ちょっとイロイロあったけど、あれがボクと律子の『運命的な出会い』だったんだと、思うことにしている。
――小一時間ほど走って、自宅まで戻ってくると、すっかり顔が冷たくなっていた。それなのに凛は、
「ただいまー」
と疲れた様子も見せずに、バタバタと玄関を入っていった。
「思ったより早かったのね」
浴室から、律子が顔を出した。「お風呂、沸かしておいたわよ」
出かけるときには、
「この寒いのに、もの好きねぇ」
とか、
「風邪引いて、仕事休むことになっても知らないわよ」
とか、好き勝手なことを言ってたくせに。
「あらぁ、すっかり冷えちゃったわね」
律子は、凛の頬に手を当てて言った。「寒かったでしょう」
「うん、寒かった!」
凛は元気よく言った。「でも楽しかった!」
「とりあえず、お風呂入ってあったまってきなさい」
「はーい。それでね、あたし決めた」
「なにを?」
「あたしも大人になったら、オープンカーに乗っている人と結婚する!」
凛の言葉を聞いて、ボクはぽとりと手に持っていたグローブを床に落とした。――この間まで、「パパと結婚する~」って言ってなかったか?
それを目ざとく見ていた律子が、
「……だって。フラれちゃったわねぇ~」
くすくすと笑いながら、凛と一緒に浴室へ消えていった。
Fin.