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腕の中から図面を入れた筒が転がり落ちて、廊下にぽこーんという情けない音が響いた。それを聞きつけて、喫煙所兼給湯室から由利が顔を出した。
「あら、茜じゃない。ちょっと一服していかない?」
あたしは、
「ごめん、急いでるの。また、今度ね!」
そう言ながら、図面筒を拾い上げた。
――あれからあたしは、異動を承諾した。話を聞けば、いままでの「廃棄処分」とは違って、アンテナショップを立ち上げるので、そのスタッフに加わって欲しいということだった。課長はうすうす、あたしが営業職に向いてないことに気付いていたらしい。正確に言うと、ルート営業ばかりの、ウチの会社の営業職としては、だけど。
半信半疑のまま、アンテナショップの顔合わせに出席した。各部署から集められたスタッフは、ヤル気の塊のような人たちばかりだった。壮絶なジャンケン大会を勝ち抜いて、スタッフ入りを勝ち取った人もいた。そこで紹介されたプロジェクトリーダーが、紗恵子さんだった。このプロジェクトのためにヘッドハンティングされた紗恵子さんは、エリートコースに乗った女性特有のキツさがなく、それどころか、
「わたしが責任取るから、やっちゃいなさい」
が口癖という、親分肌な人だ。
紗恵子さんに妙に気に入られてしまったあたしは、次々と見たことも聞いたこともないようなジャンルの仕事をまかせられるようになった。やっかいで面倒で難しいことばかりだけれど、いまのあたしには、それが楽しい。
「来週、合コンの予定があるんだけど……」
言いかけた由利に、
「それどころじゃないからパス。またね!」
あたしは手を振って、エレベーターに飛び乗った。
Fin.